夜が明けぬなら、いっそ。
景秀side




「はぁ、はぁ…」


「困った、熱が下がらないな…」



濡らした手拭いを額に乗せて、苦しそうに呼吸を上下に動かす小雪。

もう丑三つ時だ。

外はまた吹雪が嵐のように舞っていた。



「…このまま行かないでくれないかなぁ」



小雪が探している伊佐という男は、かつて周りから“先生”と呼ばれていた徳川家の家臣である男の知り合いだった。

そいつは戸ノ内 彦五郎の知り合いでもあって、壬生浪士組の土方が言っていたとおり裏売買に関わっている男だ。


そして───…俺の情報も少しは知っているだろう。



「良い奴なのはお前だよ小雪。お前は…優しくて鈍感すぎる」



だからいけないんだ。
もっと疑ってかかれ、暗殺者ならば。

俺のことだって数馬のことだって、結果お前が悲しい思いをするだけだろう。




「お前の父親を殺したのは───…俺だよ、トキ」




お前を救いたかったから、そんなことを言ったところで信じやしないだろ?

だから俺の最後はお前に殺される。

そんなこと、戸ノ内を殺したときから覚悟していた。


いずれこんな日は来るだろうと。



< 68 / 210 >

この作品をシェア

pagetop