夜が明けぬなら、いっそ。
路地裏にしゃがむ標的は子供だった。
まだ10歳くらいか、大人に紛れるために手拭いを被って偽りの薬箱を背負っているが、やはり子供。
逆にそのすばしっこさを武器に泥棒をしたのだろう。
「別に怪しいものじゃないから安心して。ほらこの通り、若いお兄さんだ」
「な、なんだよ…!おいらに何か用か…?」
「うーん、用ってわけじゃないんだけれどね。君は誰かに頼まれてお使いかな?」
こういう場面は苦手だった。
だから私は景秀の背中に隠れるように、標的との会話を聞く役目。
けれど気さくな連れは子供にも簡単に踏み入ることが出来るらしい。
それはやはり天性の性格なのだろうと。
「おいらは母ちゃんのために来た…!」
「お母さん?それ、お母さんにあげたかったのかい」
「そ、そうだ…っ!」
小さな手が握りしめていたものは、淡い色をした簪。
だけど一目瞭然。
この少年は武家の生まれでもなく、庶民の中でも農民以下と言ったところだろう。
到底、この簪を買う金を持っているとは思えなかった。
「でも盗みはいけないよ。それはお金を払って買うものなんだ」
「そ、そんなこと…わかってる…!!」