夜が明けぬなら、いっそ。
そんな高価なものは徳川家に代々伝わる形見とかじゃないのか。
それか、吉原の花魁へ贈るつもりだったものとか。
けれど、ここでも交渉成立。
少年の手に渡された新たな簪、そして景秀の手には少年が手にしていた簪。
「ありがとう佐吉。…早くそれ、お母さんに届けてやりな」
「うん…っ!!ありがとうお兄ちゃん!お姉ちゃん…!」
「………お姉ちゃん…?」
「お。」と、景秀の驚いた反応を聞くことなく佐吉は駆けて行った。
まさかの2人目だ。
私の身なりで女だと気づいたのは。
「小雪は16歳になる女の子なんだから。もう隠す必要もないだろうに」
「…隠しているつもりはないが。ただ、仇を討つまではと決めている」
「そうか。…なら早く討つに限るね」
無事に任務成功。
こんなにも後味の悪くない任務があるとは知らなかった。
佐吉は母親が近いうち死んだらどうなるんだろう。
残される方の気持ちを考えてしまったのも初めてだ。
「本当にありがとうございました…!!万屋さんのおかげです…!!」
「いえいえ、礼には及びませんよ」