夜が明けぬなら、いっそ。
どうにも、景秀が持っていた簪は花街で女から貰ったものらしい。
花魁でもなく下級の芸者からだと言うし、「また渡してくるさ」と呑気に放っているくらいだ。
……女から簪を貰うだなんて聞いたことないが。
自分だと思って常に持っておいて欲しいと思われる程に人気ということだろう。
「それで、こちらが聞きたいのは情報屋のことだ」
「あぁそうでした!隣町の酒場にシロ爺という年老いた老人がいるんだが、その男が情報屋だよ」
「シロ爺…」
また阿保らしい名前だ。
だが、そいつなら水戸藩のことについても詳しいとのこと。
これ以上の手間はもう無いだろうと、安心もあった。
「わかった。ちなみに、この近辺に安く泊まれる宿はあるか」
「それならすぐ近くにあるよ。この通りをまっすぐ行って右に曲がったとこ、
客が来ねェって毎回言ってる旅館だから逆に泊まってやってくれ」
そんな会話を私がしたことだから、少なからず景秀は驚きと一緒に喜んでいた。
野宿はさすがに今日はやめよう、と。
畳で寝る生活に慣れてしまうと、こういう気持ちにさせてくるから面倒でもあるが。