夜が明けぬなら、いっそ。
「あ、そうだおじさん。最後に1ついいかな」
「ん?なんだい?」
少し長話をしてしまい、結局は日没寸前になっていた。
このまま宿場へ向かおうと店を出ようとしたところで振り返ったのは景秀。
「さっきの簪を盗ったのは佐吉って男の子なんだけど、知ってたりする?」
「佐吉ぃ!?あいつか…!!いつもコソコソしてる生意気なガキでよ、とうとうやりやがったってことだな!!」
「あぁ違う違う。そういうつもりじゃなくてね、怒らないでやって欲しいんだ。むしろ…」
そいつは宥めるように言ったあと、スッと笑みを戻して店主へと。
「近いうち、…佐吉はまた1人でここに来ると思う。そしたら匿ってやって欲しいんです」
「はぁ?なんで俺が!」
「母親がね、労咳で長くないんですって」
それを聞くと、思わず店主も押し黙ってしまった。
けれど病気を利用するわけでは無いらしい。孤児は珍しいことでもないから。
「もし佐吉がまたここに来たとき、この店で働かせてやってくれませんか」
「…そりゃ無理だ。殿方の命令なら未だしも、そんな奉仕活動してねェよ」
「徳川 景秀」