夜が明けぬなら、いっそ。




「……見てられないんだよ」



可哀想とか、悔しいとか、そんな気持ちは通り越してる。

でも俺がかつてやった行動の結果に、この子の幸せがあると思った。


だから小雪には悪いけれど、戸ノ内 彦五郎を殺したことは後悔していない。



「…見たくなければ見なければいいだろ」



それが出来たら苦労しないよ。

見てられないけど、見たいんだよ俺は。


雪のように溶けていく儚い生き様ってやつを。

そこでどんなふうに笑って、この子は何を感じるのか、俺は見たい。



「でも私は…楽しかった」


「え…?」


「…あんなに笑ったのは…初めてだ」



火照った身体、仄かに赤みを帯びる頬、潤んだ瞳、それに加えて微笑みときた。

俺の腕の中で見上げるようにしてはにかんだ顔は、暗闇の中でも鮮明に映る。



「……あのさ、小雪」


「…なんだ」


「今の顔、もう1回出来る?」


「は?」



俺だけに見せた顔だ。

さっき外で見たものとはまた違う、少女の中に生まれつつある女の顔。



「…無理だ。やり方を忘れた」


「あれ、忘れちゃった?」


「……忘れた」



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