夜が明けぬなら、いっそ。
「小雪、…岡田はあまり良くないよ」
「…そうなのか…?弱い、のか」
「そう、すごい雑魚。だから駄目」
花街では必ず女を抱いていたし、暗殺任務でも抱いてから殺す作法だって身に付けた。
俺にとって女は男の暇つぶしのような、快楽を促してくれるものという印象が強かった。
自分のものにしたい、自分だけを見ていればいい。
どんなに綺麗な女を前にしても、そんな独占的な気持ちを抱くことは今まで1度たりとも無かったというのに。
「どうかしたのか。今日のお前…おかしい」
「…俺もそう思う。困ったな」
お前に殺されるなら本望かもしれない。
そのとき、俺はきっと今まで感じたこともない快感に似た気持ちを知ることになるだろうとも。
あぁ、俺はどうやら狂ってるらしい。
「ねぇ小雪、…もしお前が、仇とかどうでも良くなって、普通の女として生きたいって…少しでも思ったとき、」
返事はない。
けれど、寝てはいない息づかいで待っていた。
「そのときは……俺と一緒に、」
暮らさないか───は、言えなかった。
何故かそれは言えなかった。
言ってはいけない、だって俺は徳川に支える暗殺者だ。
「…なんでもない。…おやすみ、小雪」