夜が明けぬなら、いっそ。
なにより痛んだのだ、背中の傷が。
ピリピリと俺を襲ってきたのだ。
バッテンに彫られた、この少女との因縁の印が。
「───なに?」
「…上様から文をお届けに参りました」
「あぁ、入って」
それから腕の中で少女が眠った頃。
襖の先から細々と知らせのような声が届いて、半身を起こした。
「久しぶり。俺のことなんか忘れてしまったかと思っていたよ」
「そんなわけありません。ずっと探していたくらいです」
ほら、無防備。
こうして徳川の使いである忍が来たって起きる気配もない。
そいつから差し出された文を開いて、暗闇の中で灯してくれる蝋燭を頼りに目を通す。
「………これ、断れないの?」
「厳しいかと。上様は大変乗り気ですので」
「…それはそれは。また面倒な話を持ちかけてきたものだ」
参ってしまうよ、ほんと。
あの将軍様はそろそろ退位して欲しい。
「小雪、俺に縁談だって。どう思う?」
すうすうと。
いつもより幼く見える寝顔を一撫でしてから、忍へコクリと頷いた。
サッと闇へ溶けるように消えていく黒装束。
「……この人だったらお前がいいな、やっぱり」
文と一緒に届いた1枚の写真を見つめ、眠り続ける少女へ移した。