夜が明けぬなら、いっそ。
景秀が上手く誤魔化し、男は奥を指差した。
そこに伊佐という男が居るらしい。
「気ぃ付けな。伊佐は最近、嫁に逃げられてピリついてるからよ」
「ご心配ありがとうございます。だそうだ、行こう小雪」
「あぁ」
でもやっぱし見ねェ顔だなぁ───と、不審がる男を置いて人に紛れる。
それにしても裏売買というのは密輸だけでなく、薬や人身売買までしているのか。
なぜそんな場所にいる男と父さんが関わっていたのか不思議だ。
あの人は教えることは端から見れば確かに物騒だが、根はいつだって優しい人だった。
「忙しいところすまない、あんたが伊佐か」
「んぁ?誰だテメェら」
「少し聞きたいことがある」
瓢箪(ひょうたん)を手にし、赤い鼻をしながらふらふら歩き回る男に声をかけた。
聞くところによればこんな奴が伊佐らしい。
しかし周りからは“伊佐さん”と呼ばれていることから、この場所に古くから居る男なんだと。
「戸ノ内 彦五郎を知ってるか」
「彦五郎ォ?あぁ、そういや居たなそんな男も」
「そいつが約6年前に殺されたことは知っているか」