オトメは温和に愛されたい
「あ、あのねっ。ちょっと身体、ベタベタして気持ち悪いから……一旦家に帰って、シャワー浴びてから温和(はるまさ)の部屋に行くんでもいい?」

 パパッと終わらせるから30分も待たせないよ?

 すぐそばの温和(はるまさ)を意識し過ぎて頬が熱い。多分、耳まで赤くなってしまっている気がする。

 恥ずかしさに俯《うつむ》いたまま、早口でそう付け加えたら、温和(はるまさ)が息を飲む気配がした。

「おま、それ……」

 何か言いかけて、いや、いい……と歯切れの悪い感じで語尾を濁す彼に、思わず顔をあげたら何故かそっぽを向かれてしまった。

温和(はるまさ)?」

 もしかして今すぐじゃないと都合悪い?って恐る恐る聞こうとしたら、「部屋着……」と窓外を向いたままつぶやかれて――。

「部屋着?」

 何の脈絡も感じられないセリフに、キョトンとして問い返したら、「お前、可愛げのない小豆色(あずきいろ)のスウェットの上下持ってただろ? あれ、着てこい。――だったら話、聞いてやる」とか何の嫌がらせですか?

 私、温和(はるまさ)に、積もりに積もった想いの丈を告白する予定なのに……可愛げのない服装指定とか……有り得ない!
 できれば少しでも可愛く見られるように、シフォン素材の清楚なワンピースとか…そう言うのを着て行きたいくらいなのに。

「あ、あの……イメージにないかもしれないけど……私、可愛い部屋着も持ってるんだけど、な……?」

 部屋着指定ならそっちでもいい?
 思い切り譲歩してそう問いかけたら、にべもなく却下されてしまった。

 なんなの。
 新手のいじめ?

 私はあまりの暴君発言に、段々腹が立ってくる。

「もう! なんでそんな服とか指定されなきゃいけないのよ!? どんだけ俺様なの!」

 プンスカしながら噛み付いたら、「貴重な時間、お前のために使ってやろうってんだから少しは俺を笑わせろよ」とか……本当最低っ!

「違う服で来たら話、聞かないからな」

 この話はこれで終わり。

 温和(はるまさ)に無理矢理終止符を打たれるように車外に出られて、私は正直不完全燃焼です。

 温和(はるまさ)が助手席のドアを開けてくれて、納得行かないままに車外に出たら、ちょうどポツポツと雨が落ち始めた。

(あーん。まるで私のモヤモヤした心みたいっ!)

 そう思って、空を見上げた。
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