オトメは温和に愛されたい
 隙間から顔を見せて、

「本当に追い返す気なら、私の手、気にせず思いっきり挟んだらいいじゃないっ!」

 自分でも無茶苦茶なことを言っている自覚はあるの。でも、引き下がれないもの。
 ドアノブに手をかけたままの温和(はるまさ)の腕を掴んでそう言ったら、不意にドアが大きく開かれた。

 そのまま温和(はるまさ)に触れていた腕を逆に掴み返されて、室内に引き入れられる。

「ひゃっ!」

 わ、ヤダ、恥ずかしいっ。
 突き飛ばされるのは予想していたけれど、抱き寄せられるのは想定外で、思わず変な声が出てしまった。

 眼前に、Tシャツ越しの、温和(はるまさ)の厚い胸板の温もりを感じて、にわかに恥ずかしくなる。

 温和(はるまさ)もシャワー浴びたのかな。いつもに増していい匂いがしてクラクラしちゃう。

「……バカ音芽(おとめ)。……俺がどれだけ――」

 温和(はるまさ)にギュッと抱きしめられて、私は心臓が口から飛び出してしまうんじゃないかと思った。

 ヒェー。さすがにこれはキツイです、温和(はるまさ)さんっ。

 顔から火が出そうって、こういうことを言うんじゃないの?
 私、いま絶対、あり得ないくらい真っ赤になってる。

 そう思ったらすごく恥ずかしくなって、顔を隠したい一心で温和(はるまさ)の胸元へ擦り付いた。

 お願い。少し落ち着くまで、どうかこのままっ。
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