オトメは温和に愛されたい
 って思ってるのにぃーーーーっ!!

「ちょっ、やだ! 温和(はるまさ)っ」

 グイッと温和(はるまさ)の胸元から顔を引き剥がされて、私は慌てて顔を背ける。

音芽(おとめ)、こっち向けよ」

 なのに何で追い討ちかけて来るの?

「あ、あのっ、ちょっと今は……無理、かなっ」

 本当、もう少しだけ待ってくれない?

 出来れば私の両肩を掴んだままのその手を離してもらえると、もっと早く回復すると思いますっ。

 ゴニョゴニョとそう言ったら、手を離してくれてホッとしたの。それなのに――。

「ひゃっ……!」

 いきなり温和(はるまさ)に抱き上げられて、私はびっくりしてしまう。
 女の子憧れの横抱き……。お姫様抱っこ。何度かされたことあるけれど、照れくさいし、自分は重いんじゃないかとか色々気になるものなのよ?

 それにね、今は特にダメ。本当にダメ。

 こんなのされたらますます温和(はるまさ)を意識してしまうじゃないっ。

 だから本当、やぁーめぇーてぇーっ!

 足をジタバタしたらミュールが両方とも足をすっぽ抜けて飛んでいってしまった。
 コン、コンという音が2回したけど……。やーん! お行儀悪いっ。っていうか、どこ、飛んでったのっ!?

 あれやこれや恥ずかしすぎて、私は両手で顔を覆い隠した。
 顔が熱いのに比べて、手はめちゃめちゃ冷たくて。
 私、緊張すると子供の時からすぐ手が冷たくなるの。
 火照った頬に冷たい手のひらの感触が心地いい。
 とか悠長なことを思っている余裕すらなくてっ。

 温和(はるまさ)、私をどこに運ぶの!?
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