オトメは温和に愛されたい
 そんなことを思うのに、恥ずかしくて彼の方を見られないし聞けないの。指の隙間から温和(はるまさ)の顔を窺い見ることさえ出来ないくらい、彼を異性として意識したの、初めてかも知れないっ。

「は、温和(はるまさ)っ。あのねっ、あのねっ」
 テンパりすぎて、口が意味もなく空回りしてしまう。
 顔を覆い隠したままあのねを繰り返す私に、温和(はるまさ)ったら何も言ってくれないの。
 それが余計に私を動転させた。

「えっとね、えっとね……ちょっと待ってね。今あれ……色々考えてるから」
 そこまで言ったところで、ひんやり柔らかな布団の上に下ろされて、身体全体を温和(はるまさ)の残り()が包み込んでくる。

 な、何これ、何これ……。
 さすがに顔を覆っている場合じゃない気がする。
 私は恐る恐る顔から手を外して――。

「えっ、なっ、何でっベッド!?」
 思わずそう言わずにはいられなかった。


***


「だからダサいの着てこいって言ったんだ。言うことを聞かなかったのはお前だからな?」

 吐き出すように言われて、横たえられた私の顔のすぐ横に、温和(はるまさ)が腕をついてきた。

「風呂上りのそんな格好見せられて、我慢しろって方が無理な話だろ」

「……あ、あのっ、はっ、温和(はるまさ)さんっ?」

 私は状況が飲み込めなくて、両手を胸の前で組むようにしてギュッと握りしめた。

「わ、私っ、温和(はるまさ)に言わなきゃいけないことがあって……」

 その状態のまま、一生懸命言葉をつむぐんだけど、本当はそれどころじゃない状況なの、頭では分かっているつもり。
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