オトメは温和に愛されたい
 ほわほわした頭で温和(はるまさ)を見つめていたら、首筋を辿って下りてきた彼の手が、シャツワンピにかかって――とても丁寧な所作で、上から順にひとつずつボタンが外されていく。

 温和(はるまさ)の手で、胸元が肌蹴られていくのを他人事(ひとごと)のような気持ちで傍観していたら、私の反応を見つめていた彼が、ゆっくりと屈み込んできて、不意に胸元へ彼の吐息がかかった。

 その感触に、視線を温和(はるまさ)に向けて、私は今更のようにハッとする。

 やだ……! わ、私っ、ブラ……見えちゃってる!

 ここへきてやっと、私は流されかけていた自分に気付いて正気に戻った。

 いけない――。

 大好きな温和(はるまさ)に求められたのが嬉しくて、つい流されてしまうところだった!

 まだ気持ちも伝えていないのに、なぁなぁで抱かれてしまうとか……あり得ないよ。

 私は温和(はるまさ)とエッチしたいわけじゃない。ただ、ちゃんと好きって伝えたいだけなのに……何してるの?って思ったら、自分で自分の愚かさが、本当に嫌になった……。

 ギュッと温和(はるまさ)の手首を掴んで彼を見つめると、小さく首を振ってイヤイヤをする。それを見て、温和(はるまさ)がハッとしたように慌てて胸元から手を引いてくれて、私は心底ホッとする。

「……温和(はるまさ)、私ね、こ、んなの、嫌、だよ……? 恋人でもない相手に……こういうのは……ダメ……」

 ――こんなことをしたら……逢地(おおち)先生に対する裏切りだと思うし。ね?

 私はその言葉を、寸でのところでグッと飲み込んだ。それを言ってしまったら、大好きな温和(はるまさ)と素直に触れ合えない自分が、何だか惨めになりそうで。

 私は気持ちを切り替えると、温和(はるまさ)を見つめて、呼吸を整えながら少しずつ言葉をつむぐ。

「それに私、話したいこと、あるって……言った、よね? まずは約束通り、(ソレ)、聞いてよ? こういうこと、したくて、可愛い格好を、してきたわけじゃ、ないんだよ? 温和(はるまさ)の言いつけを守らなかったのは……私も良くなかった、けど。でも、だからって……こういうのは……鶴見(つるみ)先生のやり方と変わらないって思わない?」

 そう言ったら、温和(はるまさ)がグッと下唇を噛んだのが分かった。

 ごめんね、温和(はるまさ)

 お風呂入って、一人暮らしの異性の家を訪れてこんな格好……。
 男性なら誘ってると思っても不思議じゃなかったんだよね、きっと。

 カナ(にい)の言動でそう言うのは学んでたはずなんだけどな。

 私、温和(はるまさ)に限っては、何故か奏芽(お兄ちゃん)のやり方と重ならなくて失念してた。

 温和(はるまさ)が私の手を引っ張って起こしてくれて、私はスカートの裾を整えると、ベッドの上に正座する。

温和(はるまさ)……。……あのね、私――」
< 113 / 433 >

この作品をシェア

pagetop