オトメは温和に愛されたい
*繋がる心と……
「音芽(おとめ)……、おい、音芽」

　肩を揺すられる気配で、私はハッと目を開けた。
　私……まさか寝ちゃってた……？

　結局あの後、私は迷ってこの部屋の鍵をテーブルの上に戻して、そのままベッドに戻ったの。
　温和(はるまさ)が出て行った時のまま、じっとベッドサイドに座って待っていたはずなんだけど――。

　大泣きしちゃったからかな。
　いつの間にか眠ってしまっていたみたい。

「はる、ま、さ？」

　身体を起こした途端にズキン、と頭に痛みが走って、私は思わず眉をしかめた。
　目も……腫れぼったい気がする。
　あんなに泣かなきゃ良かったって後悔したけれど、今更で。

「お前、玄関の鍵開けたまま寝てるとか……危ないだろうがっ！」
　温和(はるまさ)が私の無用心さを怒っていたと思ったら、泣き腫らした顔に気付いて、「――って、もしかして泣いてた……のか？」と心底驚いた風に聞いてくる。
　私を散々不安にさせておいて、悪びれた素振りのない彼を見ていたら、段々腹が立ってきた。

「何で……？」

　ってつぶやかれて、私はとうとう堪忍袋の緒(お)が切れた。

「泣いてたわよ！　悪いっ？」

　キッと温和(はるまさ)を睨みつけてそう言ったら「悪いに決まってんだろ。音芽(おとめ)のくせに、俺の知らないところで、俺に無断で泣くな」って酷くない？

「だったら……！」

　ダメ、また泣いちゃいそう……。
　慌てて顔を背けようとして、それでもさっき、そのせいで言いたいことを言えなかったことを思い出した私は、顔を逸らすのをやめた。

　代わりにギュッと温和(はるまさ)に抱きついてから、「だったら……話の途中で私を置いていなくならないでよ……」って言ったの。

　私が急に抱きついたから、温和(はるまさ)はびっくりしたみたい。珍しく憎まれ口がひとつも降ってこなかった。
　温和(はるまさ)が抵抗しないのをいいことに、私はそのまま言葉を続ける。
< 118 / 433 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop