オトメは温和に愛されたい
 私は冷え切った拳を握りしめると、温和(はるまさ)の顔を見上げて、なるべく重くならないように気をつけながら付け加えたの。

「あ、でもねっ……恋人になりたいとか、そんなおこがましいこと思ってるわけじゃないよっ? ほら、あれだよ。近所の憧れのお兄ちゃんだから温和(はるまさ)はっ。だからね、私のことは気にしないで大丈夫っ。今日はずっとずっと持ち続けてきた自分の気持ちにけじめをつけたかっただけなの……。だから……だから……」

 あ、ダメ。
 何でここで涙……。
 私、これ、笑って言わないとけないセリフ、なのに……。

 温和(はるまさ)に泣き顔を見せたくなくて、不意に(うつむ)いたら、ポトッと涙が落ちてスカートに染みを作った。
 でもきっと、私の頭で死角になってて、温和(はるまさ)には見えてない。
 だから、大丈夫。

 そのはずだったのに――。

 温和(はるまさ)に両頬を挟むようにして顔を上向けられて、私は瞳を見開いた。

「バカ音芽(おとめ)。俺に無断で泣くなって言っただろ? それに――何度も言ってるけど、俺はお前の兄貴じゃない」

 頬を挟んだままの状態で、グイッと親指の腹で涙を拭われて、泣き濡れて赤くなっていた目元が少しヒリヒリした。

「痛いよ、温和(はるまさ)……」

 言って、温和(はるまさ)を見つめたら、思いのほか至近距離で目が合ってしまってドキッとする。
< 120 / 433 >

この作品をシェア

pagetop