オトメは温和に愛されたい
「……さっきのお前のアレだけどな――」

 温和(はるまさ)がふいっと私の視線から逃れるように目を逸らすと、ボソリと吐き捨てるように言う。

「さっきの、アレ?」

 って告白のこと?
 それとも付き合えなくてもいいって言ったこと?
 どっち?

 温和(はるまさ)は私をからかうときは饒舌(じょうぜつ)なくせに、肝心なところではいつも言葉足らずなの。

「俺は認めないから」

 って……何を――?

 (じれ)ったくなって温和(はるまさ)に詰め寄ろうとしたら、彼がギュッと両頬を挟む手の力が強くなった。

 ちょ、やめてっ。変顔になっちゃうっ!
 そう思って温和(はるまさ)の手から逃れようとしたら、彼の顔が近付いてきて――。

「俺にキスされるの、嫌じゃないんだよな?」

 そ、そんなのっ……。わざわざ確認しなくても……。

 小さく(うなず)こうとして、顔を固定されていて出来なかったから、私は代わりに目をつぶった。
 途端、頬に当てられていた手の力が緩められて、温和(はるまさ)の片手が(あご)にかかって。
 そのままほんの少し顔を上向けられて、優しく唇を()まれた私は、強張らせていた身体の力を抜く。

 さっきみたいに舌を絡めるようなキスをされちゃうのかな?って身構えたのだけど――。

 温和(はるまさ)はついばむように軽い口付けを何度かして唇を離すと、私をじっと見つめてきた。

音芽(おとめ)、俺のこと本当に好きなんだったら、俺と付き合えよ。彼女にはなりたくないけど俺のこと好きとか……そんなわけ分かんねぇ主張、俺は認めないから」

 温和(はるまさ)に不機嫌そうな顔で睨まれて、私は困惑してしまう。
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