オトメは温和に愛されたい
「で、でも温和(はるまさ)……」

 逢地(おおち)先生は?って聞こうとしたのに、「うるさい、少し黙れ」って抱きしめられた。

「あ、あのっ、(はる)(まさ)……?」

 向かい合わせでギュッと抱きしめられているから温和(はるまさ)の顔は見えないけれど、代わりに彼の髪の毛と吐息が首筋をくすぐって、ソワソワしてしまう。

「――なぁ、音芽(おとめ)

 その体勢のまま、温和(はるまさ)が低く甘やかな声で私に呼びかけてきたから、私、すごくドキドキしたのよ。

 それなのに――。

「俺、お前のこと……その……嫌いじゃ、ないから」
 って、他に言いようがないですか?

「嫌いじゃないってことは……好きでもないってことだよね?」

 ムスッと頬を膨らませて彼の腕の中で身じろぐと、温和(はるまさ)の腕が少し緩んだ。それをいいことに下から仰ぎ見るように睨んだら、「バカっ、お前。少しは察しろよ」って、そっぽを向かれてしまった。

 温和(はるまさ)って、何でこんなに素直じゃないの?

「私ね、初めてはちゃんと気持ちを伝えてくれる人と付き合いたいの。だから、申し訳ないけど好きって言ってくれない温和(はるまさ)とは無理。難しいかもしれないけど……私を好きって言ってくれる人を見つけて、その人のこと好きになって、その人とお付き合いするっ!」

 あんまりひねくれたことを言うから悔しくなったの。

 私、一生懸命気持ち、伝えたのに……温和(はるまさ)は言ってくれないの?

 私のこと、本当は好きじゃないけど合わせてくれようとしてるだけなんじゃない?
 そんな疑念まで生まれてしまって……顔をうつむけて本心とは裏腹に意地を張ったら、温和(はるまさ)が「音芽(おとめ)……」って、すごく真剣な声で呼びかけてきて。

 その声に、温和(はるまさ)の顔を見上げたら、じっと目を見つめられて、すごく気まずそうな……ともすると泣きそうな声音で、言われた。

音芽(おとめ)、俺、ちゃんと……好き、だから。……多分、お前が思ってる以上に、俺はお前のことを想ってる……と、思う。だから……他の奴に行くとか、冗談でも……言うなよ」
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