オトメは温和に愛されたい
「……はい」

 自分を鼓舞するように小さく首肯(しゅこう)すると、私はブラの肩紐をそろそろと腕から抜いて、ベッド下にそっと落とした。

 これでいいよね?って……褒めてもらえるかな?と温和(はるまさ)を見つめたのに、彼はそんな私にさらに追い討ちをかけてくるの。

「その次、どうしたらいいか、言われなくても分かるよな?」

 私を見下ろすようにそう告げてくる温和(はるまさ)の視線が、腰から下にまとわりついたままのしわくちゃのワンピースに注がれているの、私にも分かる。

 でも……これを取ってしまったら……私、ショーツ1枚だけになってしまう。
 しかも……何となく自覚してるの。下着が濡れてしまっていること。

 それを暴かれるのは……。さすがにそれは……。すごくすごく恥ずかしい。

 そういえば私は何もしなくていいって……こうなってすぐの時、温和(はるまさ)、言わなかった?

 無意識に胸を隠して、泣きそうな目で(すが)るように温和(はるまさ)を見上げたら「音芽(おとめ)、俺、胸隠していいって言ったっけ?」って逆に叱られてしまって。

「ごめ、……なさい」

 別に謝る必要なんてないじゃないって理性は騒ぐのに、何故か彼の言いつけを守らなかったことを謝罪するのが正しいのだと心が告げる。

 小さい頃から私、いつも優しい温和(はるまさ)の言いつけを守っていれば、間違いはなかった。
 それがいつの間にか身体の芯まで擦り込まれていて……彼が私に冷たく当たるようになってからも、心の奥底にその思いはずっとくすぶっていたから――。

 長じて同僚という立場になってからも、温和(はるまさ)は間違ったことは言わない人だった。
 何度かミスをして叱られたこともあったけれど、どれも温和(はるまさ)の言う通りだったし、温和(はるまさ)のアドバイスに従ったら失敗もちゃんとカバーできた。
 その結果、温和(はるまさ)に対する絶対的な肯定感みたいなものが、知らないうちに私の中で増長されてしまっていたみたい。

 それが、こんな時に出てきてしまうなんて……とてもマズイ気が、する……。
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