オトメは温和に愛されたい

「――今は……どうなんだよ？」

　ややしてボソリとつぶやくように言われた言葉に、私は「何の話だろう？」と思ってしまった。

「今？」

　仕方なく温和(はるまさ)の言葉を復唱したら、睨まれた。

　何でそんな急に怒るの？

　全然意味が分からない。

　温和(はるまさ)は私をお嫁さんにしてくれるって言ったことなんて忘れてるって言った。
　私にとっては大切な思い出だったけど、温和(はるまさ)にとってはその程度なんだって思って悲しかったの、私の方なんだけどな？

　覚えてないって言われたら「自分はそれを励みに幼少期を過ごした」とは言えないし、ましてやそれが社交辞令だったんだと思い至ってからも、「ずっとずっと温和(はるまさ)のことを忘れられなかった」とか……そんなこと言ったら痛すぎるでしょ？

　だから私、忖度(そんたく)しただけだよ？
　何か間違ってた？

「お前にとって俺はそ(・)ん(・)な(・)こ(・)と(・)思(・)え(・)な(・)い(・)よ(・)う(・)な(・)相(・)手(・)なのか？って聞いてんだよ」

　吐き捨てるように言った温和(はるまさ)が、ハンドルを強く握ったギュッという音が微かに聞こえてきて。
　そんなに力を入れて感情をセーブしないといけないほど、温和(はるまさ)はイラついていると言うことなの？って思ったら気持ちがざわついた。