オトメは温和に愛されたい
***

 温和(はるまさ)は校舎裏の辺りまでずっと私の手を離してくれなくて、誰かに見られてしまったんじゃないかとドキドキしてしまった。

「あ、あの……温和《はるまさ》、そろそろ」

 手を離さないとまずいと思うの。

 私だって本音を言うと、ずっと温和(はるまさ)と手を繋いで……。
 ううん、違う。
 もっと言うと腕を組んだりして……歩いていたかったよ?

 でもね、今は、ダメ。
 ここでは、ダメ……。

 私の言葉に温和(はるまさ)がほんの一瞬すごく寂しそうな顔をして……でも、すぐにいつものどこか不機嫌に見える顔に戻ってから、「……だな」ってつぶやいて手を離してくれたの。

 自分から手を離すことを促したくせに、実際そうされると悲しく感じてしまうだなんて……ワガママだね、私。


***


 結局、あの後気持ちを落ち着かせるべく下駄箱前で5分ばかりぼんやり佇んでいた私は、いつもよりちょっぴり職員室へ入るのが遅くなってしまった。

「おはようございます、鳥飼(とりかい)先生」

 席に着くと同時に逢地(おおち)先生ににっこり笑顔で挨拶されて、「あ、逢地(おおち)先生、おはようございます」と返しつつも、私はやたらとドキドキしてしまう。
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