オトメは温和に愛されたい
「あ、そうだ。鳥飼先生、それ、お願いしますね。――毎朝すみません」
逢地先生が、私の机に置かれたクリップボードを指差していらして、私は弾かれたように机上からA4サイズのそれを手にとった。
ボードについたクリップに挟まれた自分の受け持ちクラス――2年2組の子たちの名簿に目を落としながら、「もちろんです。こちらこそ毎日ありがとうございます」と答えた。
逢地先生から頼まれたのは、朝学活の時に私たち担任が児童らの出席状況などを書き込む、いわゆる出席簿だ。
逢地先生は毎日、私たち担任が付けたそれを元に、職員室入り口のホワイトボードに全クラスの児童らの欠席状況や遅刻状況などを書き込んでくださる。
毎日毎日全クラスの児童らの健康状態に気を配ってくださる逢地先生は、やはり素敵な女性だなと思うの。
いつもなら手渡しで受け取るクリップボードなんだけど、今朝は私がくるのが少し遅かったから机上に置いてくださったんだと思う。
いつもと違う動き、変に思われたりしてないかな。
ふとそこで隣席の温和を見て、挨拶をしていなかったことに気がついた私は、不自然に見えませんように、と祈りながら「おはようございます」と小声で挨拶をした。
本当は一緒に来たくせに、私より5分ほど早く職員室へ入っていた温和が、私がクリップボードと荷物を机上に置くさまをじっと見つめてくる。