オトメは温和に愛されたい
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 鶴見(つるみ)先生がいらっしゃらないからといって、2年3組の子達を放置するわけにはいかない。
 担任不在の穴は、受け持ちクラスのない校長・教頭・教務・専科の先生方が各々の空き時間をやりくりして代わりばんこに埋め合わせた。

 体育や図工など、複数クラス合同で出来るものについては、私や温和(はるまさ)が他の先生の手をお借りしながら自分のクラスの子達と一緒に授業を進める形でまかなった。

 数日ならこの体制でも持ち堪えられるけれど、やはり長期となると厳しい。

 何より担任不在というのは児童らにとっても不安なものだから。

鳥飼(とりかい)先生、鶴見先生、いつ帰ってくる?」

 鶴見先生の受け持ちクラスの児童らからそんな風に問いかけられるたび、私の胸はシクシクと痛んだ。

 明日から新しい先生が鶴見先生の代理でいらっしゃるというのはまだ今の段階ではオフレコだから。

「ごめんね、先生そのへん詳しく聞いてなくて。でも……早く戻っていらっしゃるといいね」

 温和(はるまさ)(なら)ってぼんやりと言葉を濁すと、明確にいつ、と示されなかったことに子供たちが不安そうな顔をする。

(ごめんね)

 鶴見先生が児童らに慕われているのを痛感しながらも、心の中で謝ることしか出来なくて……。
 そんなやり取りを繰り返しているうちに、先日私にひどいことをしてきた鶴見先生は別人だったんじゃないかという戸惑いさえ生まれてきて心がざわついた。

 そんなことあるはずないのに。

 私、こういうところが隙だらけでダメなんだと、幼い頃からカナ(にい)温和(はるまさ)にさんざん叱られてきたのに、分かっていてもなかなか変えられないものね。

 ひとりトイレの鏡の前で、頬っぺたを両手でペチペチと軽く叩くと、そんな自分に喝を入れた。
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