オトメは温和に愛されたい
***

 温和(はるまさ)照れ(それ)を誤魔化すみたいに助手席側の扉を開けて、
「乗れよ」

 ぶっきら棒に言うと、私が着座したのを確認してからゆっくりとドアを閉める。

 シートベルトを装着していたら、運転席に乗り込んできた温和(はるまさ)が、エンジンをかけながら、ふと思いついた何でもないことのように問うてくる。

「……で、俺と逢地(おおち)先生の間の誤解はちゃんと解けたんだろうな?」

 言われて、私は思わず「うん」とうなずきそうになってから、ふとあることを思い出してブンブン首を横に振る。

「は? バカ音芽(おとめ)! お前、逢地(おおち)先生から何聞いて来たんだよ」

 温和(はるまさ)はシフトレバーにかけていた手を放すと、私の方へ身を乗り出してきて。

「バッ、バカはどっちよ!」

 私は温和(はるまさ)をキッ!と睨み付ける。

「いっ、いくら相談されたからって! 何で可愛い角度を教授する為に、付き合ってもいない女性の顔に触れたりするの!? 温和(はるまさ)がそんなことをするから私――っ!」

 そこまで言ったところで、横から伸びてきた温和(はるまさ)の手にあごを持ち上げられて。

「……す、――んんっ!」

 すごくモヤモヤさせられて……って続けようとしたのに、唇を塞がれて言わせてもらえなかった。

「……お前、俺が逢地(おおち)先生にキスしようとしてたと思って……妬いてくれたんだよな?」

 嬉しげにニヤリと笑われて、私は一気に恥ずかしくなる。

「そ、そんなことないもんっ!」

 そっぽを向きながら一生懸命言った言葉は、自分でも分かるくらい空々しかった。

「安心しろよ、音芽(おとめ)。俺が口付けたいって思える女は――後にも先にもお前だけだから」

 温和(はるまさ)、ずるい。

 そんな風に言われたら……私、ますますアナタの方、振り返れなくなっちゃうじゃん。
 
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