オトメは温和に愛されたい
***

 温和(はるまさ)と一緒に出勤して、昨日みたいにほんの少しだけタイムラグを作って別々に職員室に行こうって話になった。

 昨日は温和(はるまさ)が先だったから、今日は彼を車内に残して私だけ一足先に降りさせてもらう。

 そのまま数メートル歩いて、ふと立ち止まる。

 考えてみたら一緒のアパート――それも隣同士――に住んでいるのは周知の沙汰で。
 しかも幼い頃から一緒に育った幼なじみのような存在というのも知れ渡っている私たち。
 そんなふたりが、一緒の車に乗り合ってきたからって何ら不自然ではないんじゃない?

 いや、むしろ今まで別々に出勤していた方が不自然だった気がする。

 ふとそんなことを思った私は、クルリと向きを変えた。
 運転席で突っ伏すようにしてハンドルにもたれている温和(はるまさ)を窓越しに見て、眠ってるのかな?と寸の間迷ってから、思い切ってコンコンと窓ガラスを叩く。

 温和(はるまさ)、寝不足だもんね。
 胡乱(うろん)げに私を見つめてから、窓を開けてくれた。
「何だ、忘れ物か?」
 あくびを噛み殺しながら告げられた言葉へ、ゆるゆると首を振ると、「ね、一緒に行こう?」と恐る恐る言ってみる。

 さっき思ったことを説明したら、温和(はるまさ)がほぅっと溜め息をついた。

「それもそうだな。音芽(おとめ)のくせに冴えてるじゃん」

 ニヤリと意地悪に微笑んで私を見上げる顔に、ドキッとしてしまう。
 どんな顔をしていてもやっぱり温和(はるまさ)は、思わず目を奪われてしまうぐらいかっこいい。

 思ったらブワッと頬が熱くなって、慌てて温和(はるまさ)から視線をそらせると、ソワソワしながら温和(はるまさ)が降りるのを待った。
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