オトメは温和に愛されたい
川越先生
 職員室に入って時計を見ると、今日はいつもよりゆとりがあって。

霧島(きりしま)先生、コーヒー飲まれますか?」

 自分が淹れるついでに温和(はるまさ)のも淹れてあげようかな?と思ったのは、彼が私の彼氏だからと言う気持ちの現れだった気がする。

「ん? ああ、(たの)……お願いします」

 あ。今、ボォーッとしてて「頼む」って言いそうになったの訂正した。
 最近温和(はるまさ)、私よりそういう“うっかり”が増えている気がする。
 帰ったらダメ出ししてやろーっと。

 何となくちょっぴり優位に立てた気持ちになって、温和(はるまさ)からふと視線をそらしてほくそ笑んだら、すぐさま睨まれた。

 ひゃっ、バレてる!?

 それだけでお仕置きされそうな気持ちになって、私の優位性はしゅん、と鳴りを潜めてしまった。
 くぅー、なんか悔しいっ。



 温和(はるまさ)はブラックコーヒー派。
 対して、私はミルクを入れないと飲めない、しかもどちらかと言えばコーヒーよりミルクティー派。

 コーヒーコーナーに置いてある温和(はるまさ)のカップと自分のカップ各々に、好みに沿った淹れ方をして、ふとどうやって運ぼうかな?って考える。
 相手が気心の知れた温和(はるまさ)だと言う気の緩みも手伝って、「ふたつだし、トレイはいいよね」って思って、カップを両手に席へ向かった。

「どうぞ」

 それを怒られちゃうかな?ってふと思ったけれど、真剣な顔をして手にした紙片と睨めっこをしていた温和(はるまさ)は、机にカップを置いた気配に、驚いたように肩を震わせた。
 まるで私には頓着していないように小さく「ありがとう」と言うと、また紙片に視線を戻す。

 温和(はるまさ)、どうしちゃったんだろう?
 さっきまでは普通だったのにな。
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