オトメは温和に愛されたい
 何だか分からないけれど気持ちがザワザワと落ち着かなくて、私は書類を片手にコーヒーに手を伸ばすと、ギュッとマグカップを握り締めた。

 と、ぼんやりしていて持ち手ではなくカップ本体のほうを握ってしまって、ジワッと伝わってきた熱に「(あつ)ッ」となって、思わず手を引っ込める。

 自分の迂闊さにブワリと身体が火照ったと同時。

 温和(はるまさ)が私のその声に書類を手放すと、カップを離したばかりの左手首をギュッと握ってきた。

「火傷っ!……は、ない……ですね?」

 慌てた様子で手のひらをじっと見つめられて、「赤くなってるみたいですけど……ヒリヒリしたりはないんですよね?」と念押しされる。

「あ、あのっ。だっ、大丈夫ですっ」

 温和(はるまさ)から、握られた手を慌てて取り戻すと、斜め正面に座る逢地(おおち)先生が小さくウインクをなさっていらして、余計に恥ずかしくなる。

 な、なっちゃん、違っ、これ、イチャついてるとかじゃないよっ!? 誤解しないでっ?

 心の中で一生懸命言い訳をするけれど、声に出せなくてまるで金魚みたいにパクパクしてしまう。

「足の次は手とか……ホント勘弁してくださいね?」

 私の視線から、逢地(おおち)先生に気付いた温和(はるまさ)が、吐息とともにそう吐き出して、こちらへ向けていた身体を正面へ戻してくれてひとまずホッとする。
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