オトメは温和に愛されたい
 私のドジのお陰で(?)張り詰めていた温和(はるまさ)の空気がほんの少し和らいだのが分かって、怪我の功名かな?とか思ってしまった。

 ホッとした私は、今度はちゃんと持ち手を持って、カップに口をつける。

「んっ」
(こ、これは……苦い……っ)

 ミルクの量が少なすぎたのか、はたまた元々のコーヒーが通常より濃い目だったのか。
 いつもより数倍苦く感じられた味に、思わず小さく声を漏らしてから、我知らず眉根を寄せた。


***


 そうこうしているうちに職員会議が始まって……私はようやく気になっていた川越(かわごえ)先生と対面できた。

川越(かわごえ)筑紫(つくし)と申します。短い期間になるとは思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」

 みんなの前で挨拶をして頭を下げた川越先生。
 お辞儀と同時にさらりと流れた髪の毛が顔を隠してしまう。

 髪の長さは私よりほんの少し短いショートボブ。
 光が当たると赤みがかかって見える髪色は、私と同じぐらいのトーンかな。

 挨拶を終えてぴんと伸ばされた姿勢の川越先生をまじまじと見て、私は思わずその整った顔立ちに息をのんだ。

(すごい美人……)

 身長は……校長先生の横に立っていらっしゃる印象から判ずるに、私より5センチぐらい高いかな?

 美人なのもさることながら、彼女が決定的に私と違うのは、すごくスタイルが良くて、メリハリのあるボディラインをしていらっしゃること。
 逢地(おおち)先生も着やせするタイプで、割とスタイルがいい女性だけど、川越先生の場合は服を着ていても、そのメリハリボディが激しく自己主張をしている感じ。

 カットソーをツンと突き上げた胸のラインも、きゅっと引き締まったウエストのラインも、要るところと要らないところのバランスが絶妙に取れているように感じられて、幼児体型の私との差に小さく吐息を漏らす。

(モデルみたいな女性(ひと)……)

 ふとそう思ってから、――でもどこかでお会いしたことがあるような……?と首をひねる。

 この微妙な既視感はなんだろう?
 そう思ったら、何となく胸の奥がざわついた。
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