オトメは温和に愛されたい
川越(かわごえ)先生、こちらです」

 職員会議が終わってすぐ、校長先生に連れられて川越先生が私たちの席にやってきた。

 逢地(おおち)先生は職員会議が終わると同時に「今日は出張があるので」と既に席を空けていらして、実質この一角には今、温和(はるまさ)と私しかいない。

 鶴見(つるみ)先生の机が、川越先生の仮の席になるみたいだ。

「川越先生、霧島(きりしま)先生、鳥飼(とりかい)先生、急な就労要請になってしまってお互い大変だと思いますが、助け合ってこの難局を何とか乗り切ってくださいね」

 校長先生にそう言われて、初めましての会釈をしつつ、各々うなずいた。

 校長がいなくなったと同時に、川越先生がそそくさと温和(はるまさ)のそばへ近付いた。

「学年主任は霧島(きりしま)先生の方でしたよね? どうぞよろしくお願いします」

 温和(はるまさ)へ向けてニコッと微笑まれるその表情に、私は胸の奥がソワソワしてしまう。

 確かに主任は温和(はるまさ)だけど、私は無視?

「はい、よろしくお願いします。とりあえず一時間目のスタートまでに余り時間もありませんし、歩きながら話しましょう。鳥飼先生も一緒に行きますよ?」

 何となく入りづらい雰囲気を漂わせるふたりに気圧(けお)されて呆然と立ち尽くしていた私は、温和(はるまさ)に呼びかけられてハッとする。

「あ、……は、はいっ!」

 返事をして川越先生に小さく頭を下げると、そそくさと荷物を両手に抱えて「準備OKですっ!」と告げた。

 途端、クスクスと川越先生に笑われてしまって、子供っぽい言動だったかも、とにわかに恥ずかしくなった。

 温和(はるまさ)がそんな私にうなずいてくれて、私はほんの少し気持ちが安らぐ。

「とりあえず笑ってないで川越先生も支度してください。……教書なんかは鶴見(つるみ)先生のがあると思うのでそれを使ってもらって……」

 温和(はるまさ)がまるで私を庇うようにそう言ってくれた気がして、嬉しさに鼻の奥がツン、とした。

 温和(はるまさ)、有難う。
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