オトメは温和に愛されたい
 鶴見(つるみ)先生――。
 私も一度なっちゃんと一緒にお見舞いに行かなきゃ。
 ふとそこまで考えて、“温和(はるまさ)と”、ではなく“なっちゃんと”、とぼんやり思ってしまっている自分にハッとした。

 私、何でこんな卑屈になってるの。


***


 教室の片隅に置かれた担任用の事務机に突っ伏すと、はぁーっと大きな溜め息をついた。

 背中にカーテン越しの西日が当たって、ほんのりと暖かい。

 こんなに川越(かわごえ)先生のことが気になってしまうのは何故だろう。
 なっちゃんと温和(はるまさ)の関係を疑っていた時だって、ここまでひどく落ち込まなかったのに。

 何だか川越先生と温和(はるまさ)を見ていると、心がざわついて止められないの。

 このモヤモヤの正体を、私は掴みかけているのに……あと一歩が出てこなくて、根拠の持てない焦燥感ばかりが募る。

 あーん、こんなことじゃダメだよ、私!
 ここは川越先生を押し退けて、私が温和(はるまさ)の横をキープするのよ!くらいの気持ちでいなきゃ。

 だって私――温和(はるまさ)の彼女だもの。

 背も低くて顔だって美人じゃないし、スタイルだって負けてるけど。
 でも……温和(はるまさ)はそんな“私がいい”って言ってくれたんだから。

 自分を鼓舞して「よし!」と顔を上げようとして……ふと川越先生の綺麗なお顔を思い出してまたしても心がヒューッとしぼむ。

 温和(はるまさ)の歴代の彼女、みんな美人だったの、私……知ってる。

 私は……彼女たちに比べたらカナ(にい)のいう通り、確かにチンチクリンだ。


***


 机に顔を伏せたまま浮いたり沈んだり(せわ)しなくウダウダしていたら、不意に「鳥飼(とりかい)先生?」と声をかけられた。

 完全に油断していた私は「ひゃっ」と変な声と同時に身体を起こして、危うくコロ付きの椅子から落っこちそうになる。

 ギリギリのところで机にしがみついて尻餅だけは回避したけれど、ものすごく恥ずかしいっ。

 ドキドキしながらゆっくり顔を上げたら――。

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