オトメは温和に愛されたい
思い切り泣いていいんだよ?
 職員室に行くと、温和(はるまさ)川越(かわごえ)先生もいなくて……。教職員全員の出勤状況が管理されているパソコン画面――退勤者は赤色、勤務者は青色で名前が表示される――を見たら2人とも赤色表示になっていた。

(打ち合わせって……校内でするんじゃなかったんだ)

 勝手に職員室ないし、他の空き教室やコミュニティルームなどで話し合いの場を設けるんだとばかり思っていた私は、その画面を見て少なからずショックを受けた。
 わざわざ退勤扱いにしての会合って……仕事の打ち合わせじゃありませんって言われている気がしてしまう。そんな風に思ってしまうのって、私が勘繰りすぎなの?

 そんなことを思って出勤管理のパソコン前でフリーズしていたら、
「あれ? 鳥飼(とりかい)先生は行かれなかったんですか?」
 図書室司書の伊佐美(いさみ)先生にきょとんとされてしまった。

 基本的にいつも図書室にこもっていらっしゃる彼女と職員室で出会うことはあまりないのだけれど、退勤処理をなさろうとパソコンのところへいらしたのへたまたま遭遇したみたい。

 投げかけられた伊佐美先生の言葉に「え?」と言ったら「霧島(きりしま)先生と……えっとあの、新しくいらした……鶴見(つるみ)先生の代わりの――」
 自分とあまり関わりがないからか、伊佐美先生は一瞬記憶を探るように遠い目をなさってから「あ、そう、川越(かわごえ)先生!」とおしゃって、私を見る。

「おふたりで連れ立って出ていかれたので、てっきり2年部の先生方で親睦会に行かれるんだとばかり思ってました」

 言って、小首を傾げてきょとんとなさる。

「あ、今日は何か……おふたりで打ち合わせがあるっておっしゃってたので」

 泣いちゃダメっ。
 自分に必死でそう言い聞かせて、ギュッと奥歯を噛み締めて不必要なくらい明るい笑顔を向けると、伊佐美先生が得心なさったようにうなずかれた。

「あ、そうなんですね。私ってば早とちりですね」

 伊佐美先生はニコッと笑って私に会釈をなさると、退勤の処理をなさってから「では、お先に失礼しますね」と声をかけて出ていかれる。
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