オトメは温和に愛されたい
***

 家に向かって足を踏み出そうとしたら、一歩毎にお腹が痛くなってきて、思わず壁に寄りかかるようにして立ち止まった。

(家、帰りたくないなぁ)

 そんなことを思って、鞄からスマホを取り出すと、無言で画面を眺める。
 もしかしたら温和(はるまさ)から何か連絡が来ていないかと期待したのだけれど、そんなものきていなくて。

 結局そのまま直帰する気になれなくて、私はスマホを握りしめるようにして幼なじみに電話を掛けた。

「どうしよう。佳乃花(かのか)……。私、温和(はるまさ)に捨てられちゃうかも……」

 消え入りそうに小さな声でそう言ったら、

『えっ、ちょっと待って、音芽(おとめ)。どういうこと?』

 電話先の佳乃花(かのか)が慌てたようにそう返してくれて。

 その声を聞いたらもう、居ても立っても居られなくなった。

「……そっち、行ってもいい?」

 泣くのを必死に堪えた震え声で鼻をすすりながら問い掛けたら、『おいで? ……っていうか来られそう? 迎えに行くよ?』と言ってくれた。
 私はひとりで行ける旨を話して、「週末にも約束してるのにごめんね」と謝った。
 佳乃花(かのか)は『そんなの気にするような間柄じゃないでしょ?』と笑ってくれて、『しんどくなったら迎えに行くからちゃんと言ってね? 無理しないのよ?』って念押ししてくれた。
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