オトメは温和に愛されたい
そうして中をガサガサしてから「えっと、とりあえずビールでいい?」と缶を見せて聞いてくる。
「……うん」
佳乃花は小さくうなずいてヨシヨシと私の頭を軽く撫でてから、いくつかのおつまみと今し方選んだビールを2缶だけ袋からテーブルに取り出して、残りを抱えてキッチンへ消えていった。
ややしてグラスを2つ手にして戻ってくると、「音芽のも開けちゃうよ?」と声がかかって。
その声に無言で首肯したら、すぐにプシュッとプルタブが引き上げられる音。
ついでシューーーーッ!という激しい音と飛び散る水しぶきが。
「わっ、ちょっ、音芽、これ、持ってくるとき相当振り回したでしょーっ!」
佳乃花が噴射されるビールを慌てて手のひらで押さえるようにしているのを見て、私は思わず笑ってしまった。
「多分それ、さっき玄関先で落っことしたから……」
小さく笑いながらそう言えば、
「やっと笑った」
佳乃花が濡れそぼった手で顔に飛び散った水滴を拭いながらニコッと笑った。
「噴射はいただけないけど、音芽を笑顔にしてくれたから許す」
言って、中身が噴出してそこら中をビールまみれにしてしまった缶を揺する。
「よかった、全部噴き出したわけじゃないみたい」
言って、グラスに無事だった分を注ぐと、佳乃花はもう一缶のプルタブに手を掛けて、でもそこで思い直したように動きを止めた。
「やっぱやめた。これは一旦冷蔵庫で寝かせることにして、代わりに一路のストックを開けちゃおう」
待っててね、と言って缶を手に立ち上がると、佳乃花は別の銘柄の缶ビールと布巾を手に戻ってきた。
それを見てハッとした私は、今更のように慌てて立ち上がると、布巾を佳乃花から奪い取った。
そうして噴きこぼれて濡れたラグやテーブルの上を拭きながら、佳乃花のところへ来てよかったと――。1人の部屋に戻らなくてよかったと――。しみじみ感じていた。
「……うん」
佳乃花は小さくうなずいてヨシヨシと私の頭を軽く撫でてから、いくつかのおつまみと今し方選んだビールを2缶だけ袋からテーブルに取り出して、残りを抱えてキッチンへ消えていった。
ややしてグラスを2つ手にして戻ってくると、「音芽のも開けちゃうよ?」と声がかかって。
その声に無言で首肯したら、すぐにプシュッとプルタブが引き上げられる音。
ついでシューーーーッ!という激しい音と飛び散る水しぶきが。
「わっ、ちょっ、音芽、これ、持ってくるとき相当振り回したでしょーっ!」
佳乃花が噴射されるビールを慌てて手のひらで押さえるようにしているのを見て、私は思わず笑ってしまった。
「多分それ、さっき玄関先で落っことしたから……」
小さく笑いながらそう言えば、
「やっと笑った」
佳乃花が濡れそぼった手で顔に飛び散った水滴を拭いながらニコッと笑った。
「噴射はいただけないけど、音芽を笑顔にしてくれたから許す」
言って、中身が噴出してそこら中をビールまみれにしてしまった缶を揺する。
「よかった、全部噴き出したわけじゃないみたい」
言って、グラスに無事だった分を注ぐと、佳乃花はもう一缶のプルタブに手を掛けて、でもそこで思い直したように動きを止めた。
「やっぱやめた。これは一旦冷蔵庫で寝かせることにして、代わりに一路のストックを開けちゃおう」
待っててね、と言って缶を手に立ち上がると、佳乃花は別の銘柄の缶ビールと布巾を手に戻ってきた。
それを見てハッとした私は、今更のように慌てて立ち上がると、布巾を佳乃花から奪い取った。
そうして噴きこぼれて濡れたラグやテーブルの上を拭きながら、佳乃花のところへ来てよかったと――。1人の部屋に戻らなくてよかったと――。しみじみ感じていた。