オトメは温和に愛されたい
***

 温和(はるまさ)はあの電話のあと、本当にすぐに迎えに来てくれた。
 マイカーできてくれたってことは、彼はお酒を飲んでいないということで――。

「あ、あの……温和(はるまさ)……。川越(かわごえ)先生とは……」

 どこで何をしてきたの?
 問いかけたいけれど、無言で視線を投げかけられて、私は思わず口ごもる。

 それからアパートにつくまでの間、ずっと何も言えなかった私に、温和(はるまさ)も何も言ってこなかった。
 
 温和(はるまさ)、電話では謝ってくれたけど……でもやっぱり明らかに不機嫌だ。
 お酒のせいで少しぼんやりと眠気の残る頭で一生懸命温和(はるまさ)の様子を探る。

 おかしいな。
 温和(はるまさ)に怒っていたのは私のはずで、温和(はるまさ)は私の気持ちを汲んで反省してくれたんじゃなかったっけ?

 あれれ?

 ソワソワしながら温和(はるまさ)の様子をちらちらと窺い見ていたら、「着いたぞ」って言われて車から降ろされる。

 そのまま無言で手を引かれて、
「あ、あの……こっち温和(はるまさ)()
 何の説明もなく温和(はるまさ)の部屋に連れ込まれて、さすがに非難がましくそう言ったら、睨まれてしまった。

 そのまま強引にベッドまで連れて行かれて、半ば突き飛ばされるようにベッドに座らされた私は、何が何だか分からない。

 恐る恐る温和(はるまさ)を見上げたら、
「俺、電話の後、ずっとお前が言ったこと考えてたんだけど――」
 ベッドサイドに突っ立ったまま、温和(はるまさ)がぽつんとつぶやいた。
< 241 / 433 >

この作品をシェア

pagetop