オトメは温和に愛されたい
 じっと見上げてみるけれど、彼の表情は読み取れなくて、そのことに緊張した私は、手指をギュッと握り締めた。

 温和(はるまさ)の顔、見えないけど長い付き合いだから分かる。これ、温和(はるまさ)いま、絶対機嫌悪い。

 私は小さく生唾を飲み込んだ。
 
 でもでも今回だけは……何を言われても私にだって、温和(はるまさ)に言い返せるちゃんとした理由(あれこれ)があるんだからっ!

 そう思っていたのに……。

「あの口ぶりからすると……お前、俺が川越(かわごえ)先生と何かあると思ったってことだよな?」

 温和(はるまさ)にじっと見下ろされて、私はグッと言葉に詰まった。

 無論その通りだったし、実際今でもそう思っているって言ったら、温和(はるまさ)はどういう反応をするんだろう。
 さっき佳乃花(かのか)にも私の大好きな温和(はるまさ)は本当にそんな人なの?って聞かれて否定したばかりなのに結局はこれ。本当情けない。

「でっ、でもっ温和(はるまさ)っ。私が同じことやったら……」

 ギュッと拳を握り締めて真っ直ぐに温和(はるまさ)を見上げたら、彼がふいっと視線を逸らした。
 いつもの温和(はるまさ)なら「そんなの許すわけねぇだろ」とか即答してくるところだ。
 そう思ったら、彼は彼なりに色々考えているのかなって思った。

 ややして、
「……それは……絶対許せないと……思うし……させないように邪魔すると……思う」
 温和(はるまさ)にしては歯切れ悪くそう言ってから、はぁっと小さく溜め息をついた。
< 242 / 433 >

この作品をシェア

pagetop