オトメは温和に愛されたい
 脱衣所は暖房を入れてくれたのか、浴室よりほのかに暖かくてさっきみたいにブルブルとした震えはこない。
 私は温和(はるまさ)がいないのをいいことに、バスタオルの前を(くつろ)げると、身体に張り付いたブラウスの水分を一生懸命タオルに移した。

 そうこうしていたら、トントン……と脱衣所の扉がノックされて、私は慌てて胸元を覆い直すと「はひっ」と返事をした。いま私、声、裏返ってた気がするっ。恥ずかしーっ!

 ほんの少し脱衣所の扉に隙間が空いて、そこから温和(はるまさ)の手が伸びてきた。
 手には温和(はるまさ)のものと(おぼ)しきスウェットが握られていて。

「とりあえずこれに着替えろ。膝の手当てが終わったら家、連れて帰ってやるから」
 隙間越しに温和(はるまさ)の声がする。
「着替えたらすぐ出てこいよ? あんまりちんたらすんな」
 言葉こそいつも通りつっけんどんで乱暴だけど、もう怒ってないのかな? 私のことを気遣ってくれてる気がする。

 やっぱり私は温和(はるまさ)が大好きだ。どんなに冷たくあしらわれても、たまにこんな風に優しくされただけで、馬鹿みたいに心が満たされてしまうんだもの。
 私は、そのことに、改めて気づかされた。

「あ、ありがとう」

 温和(はるまさ)の手から着替えを受け取ると、「早くしろよ?」と念押しされて、扉が閉ざされた。
< 25 / 433 >

この作品をシェア

pagetop