オトメは温和に愛されたい
霧島(きりしま)()()なら教頭先生に呼ばれてコミュニティルームよ」

 無意識、なのかな。

 温和(はるまさ)のことを霧島()()ではなく霧島()()、と呼んでから、ついでのように「()()()()()()()()お兄さんは元気?」と聞いていらした。

 美人の川越(かわごえ)先生にじっと見つめられて、私は何故かソワソワと落ち着かない気持ちになってしまう。
 それに、今の口ぶりからすると……私が奏芽(かなめ)の妹だと、気付いている風で。

「あ、はい、多分」

 兄とはそんなに頻繁に連絡を取っているわけではないので……と付け加えてから、私は何だか居たたまれない気持ちになって、いそいそとパソコンを抱えた。

「あ、あの、すみませんっ。私まだ仕事が残ってるので」 

 一応無言で去るのも失礼な気がして、一言残して会釈をすると、私は逃げるように職員室をあとにした。

 何だろ、この地に足の着かない落ち着かなさ。
 私、過去にもこの感じを確かに経験してる。でも、いつ?

 思い出そうとしたらこめかみの辺りがズキッとして、思い出すなと警告されているような気持ちになる。

 カナ(にい)が彼女に何か酷いことをして……私、それに巻き込まれた、とか?

 ふとそんなことを考えて、いくら破天荒な奏芽(あの人)でも、妹にまで危害が及ぶような悪いことはしないよね?と思い直す。

 うー、頭、ズキズキする。

 仕事に差し障るのは困るし、今はとりあえず考えるの、やめておこう。

 パソコンをしっかり抱え直すと、私は足早に2年2組を目指した。
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