オトメは温和に愛されたい
***
教室に戻って机のある辺りが明るくなるように室内の半分だけ照明をつけると、職員室から持ってきたばかりのパソコンに向かう。
開いたのが、ゴチャッとした表の中に小さな文字――数値――がびっしり打ち込んであるような書類だったので、無意識に画面に顔を寄せるようにして真剣に見入ってしまっていた。
と、「少しよろしいかしら?」
不意にすぐ耳元で声がして、
「ひゃっ!」
私はビクッと身体が跳ね上がるぐらい驚いた。
思わず椅子から転げ落ちそうになったところを、横から伸びてきた手に支えられる。
「あ、す……すみませっ」
言って助けてくれた主を見た私は、思わず硬直してしまう。
「かっ、川越……先生っ?」
いま一番無様な格好を見せたくない相手――というより顔を合わせること自体が何故か落ち着かないと感じてしまう相手の突然の訪いに、一瞬気管が狭くなって、ヒュッと喉が変な音を立てた。
「わざわざ教室でお仕事なさるのは何でかな?って心配になって……つい様子を見に来ちゃった」
何となく、やけに砕けた物言いに聞こえたのは気のせい?
でも私、なんかこの喋り方……記憶にある。
ついでにこのシチュエーションにも既視感を覚えて……。
あれはいつのことだった?
「私のこと、覚えてない? 私はすぐに音芽ちゃんだって気がついたんだけどなぁ」
意味深に微笑まれて、親しげに呼ばれた「音芽ちゃん」という言い方に、ゾクッと全身が粟立った。
それに連動する様に心臓がギューッと縮こまって痛いくらいに脈打ち始めた。
教室に戻って机のある辺りが明るくなるように室内の半分だけ照明をつけると、職員室から持ってきたばかりのパソコンに向かう。
開いたのが、ゴチャッとした表の中に小さな文字――数値――がびっしり打ち込んであるような書類だったので、無意識に画面に顔を寄せるようにして真剣に見入ってしまっていた。
と、「少しよろしいかしら?」
不意にすぐ耳元で声がして、
「ひゃっ!」
私はビクッと身体が跳ね上がるぐらい驚いた。
思わず椅子から転げ落ちそうになったところを、横から伸びてきた手に支えられる。
「あ、す……すみませっ」
言って助けてくれた主を見た私は、思わず硬直してしまう。
「かっ、川越……先生っ?」
いま一番無様な格好を見せたくない相手――というより顔を合わせること自体が何故か落ち着かないと感じてしまう相手の突然の訪いに、一瞬気管が狭くなって、ヒュッと喉が変な音を立てた。
「わざわざ教室でお仕事なさるのは何でかな?って心配になって……つい様子を見に来ちゃった」
何となく、やけに砕けた物言いに聞こえたのは気のせい?
でも私、なんかこの喋り方……記憶にある。
ついでにこのシチュエーションにも既視感を覚えて……。
あれはいつのことだった?
「私のこと、覚えてない? 私はすぐに音芽ちゃんだって気がついたんだけどなぁ」
意味深に微笑まれて、親しげに呼ばれた「音芽ちゃん」という言い方に、ゾクッと全身が粟立った。
それに連動する様に心臓がギューッと縮こまって痛いくらいに脈打ち始めた。