オトメは温和に愛されたい
 そんな私をよそに、川越(かわごえ)先生が拗ねたように唇を尖らせて

「せっかく初めましてのとき音芽(あなた)のこと気付いてないふりしてスルーしたのに。霧島(きりしま)くんってばしっかり警戒してくれちゃって、鬱陶しいったらなかったわ」

 と、私を見つめて来る。

 温和(はるまさ)が……鬱陶しい?
 一緒にいるのを望んだのは川越先生じゃなかったって……こと?

 心臓が壊れそうなくらいドクドクと嫌な音を立てている。
 何、これ。
 どういう……意味?

 机に手を付くようにして立ち尽くしたままの私に、川越先生が距離を詰めるように一歩前に出ていらして、私は無意識に削られた距離以上窓際に後ずさった。

 そんな私を追い詰めるように、さらに距離を詰めていらした川越先生が、白くて細い手を伸ばして私の頬をやんわり撫で下ろして、当然のようにそのまま唇に触れる。

 瞬間、フローラル系のあの香りが鼻先をくすぐって、彼女の指先が下唇をなぞる感触にビクッと肩を震わせた私は、その指先から逃げるように顔を背けながらつぶやいた。

「……()()()()……()()……?」

 思わず口をついて出た名前に、自分で驚いて瞳を見開く。
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