オトメは温和に愛されたい
「あら嬉しい。やっぱり覚えていてくれた! 昨日は霧島(きりしま)くんにもこの匂いがついてたでしょう? 彼に抱きしめられたとき、何か思い出せたんじゃない?」

 私に伸ばしたのとは逆の手に、小さな香水の小瓶をチラつかせながら婉然(えんぜん)と微笑まれて、温和(はるまさ)からしたあの香りはやはり意図的につけられたんだ、って思い知った。


 ズキズキと――頭が痛む。

 ハル(にい)、……カナ(にい)、お願い、助けて……。


***


 意識が白濁して気持ち悪いくらい目眩がする。
 クラクラと揺れる景色の中、世界が暗転するような錯覚さえしてきて、ああ、私、封じ込めた()()と向き合うって決めたばかりなのに、こんなんじゃダメだよ、と心の片隅で声がする。

 その声にしがみついて、なんとか意識を保ててる。

 温和(はるまさ)……。
 私、強くなるって思ったのにごめんなさい。
 守られてばかりは嫌だって、そう思ったはずなのに……廊下から温和(はるまさ)が駆けつけてくれる足音まで聞こえてくる気がして、我ながら弱いなって泣きたくなった。
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