オトメは温和に愛されたい
 カナ(にい)に、揶揄(からか)うように頭をポンポンと叩かれたり、幼い頃ハル(にい)によしよしされたときとは違って、背筋がゾクッとして思わず身体を固くしてしまう。

「あのふたりって男の子にしては綺麗でしょう?」

 あくまでも見た目が、ってだけの話だけど。そう付け加えて、喜多里(きたさと)先輩がふふっと笑った。

「私ね、小さい頃から男の子って余り得意じゃなかったんだけど……綺麗なものを遠目に見るのは嫌いじゃなかったし……貴女のお兄さんに声を掛けられたとき、彼ならそばにいるの、我慢できるかな?ってちょっと計算しちゃったの」

 私の髪の毛を指先にくるくると巻き取りながら喜多里先輩が言う。

「せ、先輩は……カナ(にい)が……嫌いなんです、か?」

 そっと顔を背けるようにして指先に絡められる髪の毛を逃がすと、私は一生懸命言葉をつむいだ。
 我慢できるかな、って思ったってことは……少なくとも好意は持っていなかったんだと思う。
 喜多里(きたさと)先輩が、好きでもない異性と辛抱してでも一緒にいないといけない理由って何?
 喜多里(きたさと)先輩は苦手な男子を克服したいと思っていて、カナ(にい)がそのきっかけになればと思ったりしたの?

「嫌い……ではなかったと思うわ。だって一緒にいても他の男の子たちに感じたみたいに嫌悪感は覚えなかったもの」

 言って、「それにね――」と告げた喜多里先輩の手のひらが、私の胸に制服の上からやんわりと触れる。
 その感触にびっくりした私は喜多里先輩の手首をギュッと掴んで一生懸命ふくらみから離そうと試みた。
 でも、そのタイミングで首筋に唇を寄せられてチュッとそこが熱くなるぐらい吸い付かれて、身体から力が一瞬にして抜けてしまう。

「でもね、……それは彼が()()()お兄さんだと思ったからだと思うの」

 首筋から離れた唇が、耳朶を()んで耳孔へくすぐるように舌が入り込む。

「や、めて……くださっ」

 私は涙目で必死に訴えるしか出来ない自分が情けなくて、即刻この場から消えてしまいたくなる。
 どうしてこんなに身体が言うことを利かないの?
< 266 / 433 >

この作品をシェア

pagetop