オトメは温和に愛されたい
 余りに力を込めて掴まれて、「ハル(にい)、痛いっ」って眉をしかめたら、慌てたように「すまん」って手を緩めてくれて。

 それでも視線は私から外さないの。

「教室に残っているこの香りも、お前からする甘ったるいにおいも、喜多里(きたさと)のじゃねぇか! なのに何であいつ、お前が倒れてんのにそのままにしていなくなってんだよ!? 首筋のは……誰にやられた!? なぁ!」

 ハル(にい)の勢いに、私は瞳を見開いて固まる。

 首筋の――?

「……喜多里、先輩?」

 名をつぶやいてふとカナ(にい)に視線を転じた私は、言い知れぬ恐怖に駆られてゾクリと身体を震わせた。

 嫌だ、それ以上聞かないで! 頭が……痛いの。すごくすごく痛いの。

「イヤァーーーっ!!」

 私はハル(にい)の追究から逃れるように頭を抱えてギュッと丸くなる。

 その姿に、カナ(にい)がハル(にい)を私から引き離して、佳乃花(かのか)一路(いちろ)
「妹を見てやっててくれるか? ハルを落ち着かせたら担任と親に連絡とって、病院連れて行くから」
 そう言葉を残して、ハル(にい)を連れて行ってしまった。

 ハル(にい)は何をそんなに取り乱しているの?
 私、何か悪いことをしてしまったの?

 うずくまったまま一生懸命考えてみるけれど、何も思い出せなかった。

 ただ、甘ったるいフローラル系の香りと、首筋にピリピリと痛むアザだけを残して、私の記憶は深い深い闇の中に封じ込められた。
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