オトメは温和に愛されたい
今ならちゃんと
「温和……」
私の前で。喜多里先輩――川越先生から私を守るように立ちはだかってくれている温和に、そっと呼びかけると、私は彼の前に進み出た。
そのまま川越先生の真正面に立った私に、温和が「音芽……」と気遣わしげに呼びかけてくれるけれど、私は温和を振り返ってニコッと微笑んで見せた。
「大丈夫。私、大丈夫だから」
あの時と違って、私には温和がいてくれる。それだけですごく心強いの。
だからね、私を信じて?
それでも私に手を伸ばしてこようとする温和を片手を挙げて制すると、私は川越先生をじっと見つめる。
「川越先生、私、全部思い出しました」
全て思い出したと言いながら、敢えて「喜多里先輩」とは呼びかけなかった。
そのことに彼女が気付いたかどうかは分からないけれど、そんなのは関係ないの。
私の中での気持ちの問題なんだもの。
喜多里先輩とのことは過去のことで、私がいま向き合うべき相手は目の前の川越先生だよ、っていう宣言。
「川越先生が昔、私のことを特別に思ってくださっていたのは……有難いなって思います。あの、もし……違っていたらごめんなさい。髪型も、私を偲んでくださってそうしてくださってるんだとしたら……そこまで私のことを思っていただけたの、素直に凄いな、そこまで想われるとか滅多にないことだなって思うんです」
川越先生、昔は長く艶やかな黒髪だったはずだ。
それが私の髪色に近い色に染め直されていて……髪型も、長さこそボブとショートボブと言う差異があれどほぼ同じ。
そういえば高校生の頃、私は今より少し短めのショートボブだった。
川越先生に、髪を指に絡められたのを覚えている。
私の前で。喜多里先輩――川越先生から私を守るように立ちはだかってくれている温和に、そっと呼びかけると、私は彼の前に進み出た。
そのまま川越先生の真正面に立った私に、温和が「音芽……」と気遣わしげに呼びかけてくれるけれど、私は温和を振り返ってニコッと微笑んで見せた。
「大丈夫。私、大丈夫だから」
あの時と違って、私には温和がいてくれる。それだけですごく心強いの。
だからね、私を信じて?
それでも私に手を伸ばしてこようとする温和を片手を挙げて制すると、私は川越先生をじっと見つめる。
「川越先生、私、全部思い出しました」
全て思い出したと言いながら、敢えて「喜多里先輩」とは呼びかけなかった。
そのことに彼女が気付いたかどうかは分からないけれど、そんなのは関係ないの。
私の中での気持ちの問題なんだもの。
喜多里先輩とのことは過去のことで、私がいま向き合うべき相手は目の前の川越先生だよ、っていう宣言。
「川越先生が昔、私のことを特別に思ってくださっていたのは……有難いなって思います。あの、もし……違っていたらごめんなさい。髪型も、私を偲んでくださってそうしてくださってるんだとしたら……そこまで私のことを思っていただけたの、素直に凄いな、そこまで想われるとか滅多にないことだなって思うんです」
川越先生、昔は長く艶やかな黒髪だったはずだ。
それが私の髪色に近い色に染め直されていて……髪型も、長さこそボブとショートボブと言う差異があれどほぼ同じ。
そういえば高校生の頃、私は今より少し短めのショートボブだった。
川越先生に、髪を指に絡められたのを覚えている。