オトメは温和に愛されたい
「え……?」

 突然温和(はるまさ)から掛けられた言葉に、佳乃花(かのか)のほうに近付こうと浮かせていたお尻が、中途半端なまま止まる。

「だから。俺が――お前に……その、そういうの渡したら……ちゃんと付けるんだな?って聞いてんだよ」

 何度も言わせるな、バカ音芽(おとめ)

 そっぽを向いて決まり悪そうにそう付け加える温和(はるまさ)に、私は依然としてフリーズしたままで。

「ほらほら、音芽。返事しなきゃ!」

 佳乃花(かのか)に、テーブルについたままだった手をつつかれて、私はやっと喘ぐように慌てて空気を吸い込んだ。
 無意識のうちに息を止めてしまっていたみたい。

 一生懸命呼吸を整えるように肩でゼェハァしながら、隣に座る温和(はるまさ)を窺い見る。

「あ、あの……温和(はるまさ)、それって」

 恐る恐る温和(はるまさ)の方を向いたら……「そういう意味だ。いちいち確認いらねぇだろ」って、こっちを見てくれないの。

 そこは「そういう意味だよ、音芽」とか、甘い声でささやいてくれて、ニコッと微笑みかけたりしてくれるところじゃないの?

 思ったけれど、佳乃花(かのか)一路(いちろ)が顔を見合わせてから

「音芽、よかったね」
「音芽、よかったじゃん!」

 って言ってくれて――。

 私は2人の反応ににわかに実感がわいて、頬がぶわりと熱を持った。
< 297 / 433 >

この作品をシェア

pagetop