オトメは温和に愛されたい
「あのっ、温和(はるまさ)……。私……」

 嬉しいって言おうとしたら温和(はるまさ)から口に手のひらを押し当てられて止められてしまう。

「――んんんっ?」

 意味が分からなくて温和(はるまさ)を見つめたら、「この先は……いま言わなくても……いい」って不機嫌そうに言われて。

 佳乃花(かのか)一路(いちろ)の前で水を向けてきたのは温和(はるまさ)なのに、この続きは2人きりの時に……って暗に匂わせるの、すごく彼らしい。

「ワガママ温和(はるまさ)

 小声でつぶやいたら、「でもそんな俺を選んだのはお前だろ? バカ音芽(おとめ)」って……耳に唇を寄せて、ささやくように返されて――。

 はい、悔しいけどその通りです。


***


 結局佳乃花(かのか)一路(いちろ)は私と温和(はるまさ)に気を遣ってくれたみたいで、それからそんなに時間を置かずに「そろそろ……」とか言い出した。

 私は一生懸命「でも!」って止めたんだけど、飲み会はかなり早めにお開きになってしまった。
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