オトメは温和に愛されたい
 おまけにそれ、グイッと顔を近づけてきて言うとか……確信犯としか思えない!
 私はいきなりの温和(はるまさ)の急接近に、真っ赤になってうつむいた。
「っ……」
 くやしいけど、私はふたつ年上のこの男の顔が好きで好きでたまらないからっ。
 こんな風に間近に迫られたら、何にも言えなくなってしまう。

「ハル(にい)、ずるい……」
 私がアナタの顔にメロメロなの、知っててすぐこんな風に意地悪をしてくるんだもん。

 目の端に涙を浮かべて睨みつけたら、鼻をギュッとつままれて
「あん? 泣くのか? 不細工になるからやめとけ。涙が武器になんのは(はかな)げな美少女だけだから」
 とか酷すぎない?
「わ、わたっ、私だって!」
 思わず鼻を掴まれたまま温和(はるまさ)を睨みつけてみたけれど、鼻で笑われてしまった。
「俺はお前の泣き顔、子供の頃から見慣れてっけど、一度だってグッときたことねぇよ。残念だったな」
 ぐしゃっと髪の毛をかき回されて、それでも散らばった荷物は拾い集めてすぐそばに置いてくれた。

音芽(おとめ)、いつまでもそんなところに座り込んでたら通行の邪魔だ。――立て」

 だからと言って座り込んだ私に手を差し伸べてくれるわけでもなく、冷ややかに見下ろしてくる温和(はるまさ)こそ――。

「あなたこそ名前は温和(おんわ)とか優しそうだけど、ホント、ただのドSじゃん!」

 幼い頃から彼に散々音芽(なまえ)でからかわれて来た私。……そのたびに、温和(はるまさ)にも何度同じ返しをしてきただろう。

 小さな頃から見知った、幼なじみの片想いの君。
 悪態をつきながら、この恋は叶わない、私は一生処女のままなんだ!とか思ったのは……ここだけの話。――ナイショだよ?
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