オトメは温和に愛されたい
『まぁ、元祖ドSは音芽のところの奏芽さんの方だもんね。正直なところ私から見たら霧島先輩って今でも変わらず優男のイメージしかないの。意地悪なのも基本、音芽に対してだけでしょう?』
本当その通り。
温和、実は私以外――特に女性――にはすごく優しいの。それが余計にモヤモヤするんだけど……佳乃花に言わせると、『音芽が特別扱いされてる証拠なんじゃない?』になる不思議。
「そんな特別要らないしっ。私だってチヤホヤされたいっ!」
吐き捨てるようにそう言ったら、電話口からクスクスと佳乃花の笑い声がする。その可愛い笑い方に、一路が夢中になるの、分かるなぁとか思ってしまった。
私に足りないものは……そういう女の子めいた愛らしさな気がする。
「……私も可愛くなりたいよぉー」
佳乃花みたいに。
ポツンとつぶやくように言ったら、『え?』と聞き返された。
肩口で切りそろえた、色素の薄い猫毛のボブも、佳乃花の腰まで届きそうな艶やかな黒髪と比べると、女の子らしさを半減させているように思えた。
まぁ、伸ばしたところで職業柄一つに束ねたりおさげにしたりしないといけなくなるからどのみち似合わないんだけど。
『音芽に足りないのはさ、自分は小さくて守ってあげたくなるぐらいすっごく可愛いっていう自覚だと思う』
佳乃花の言葉も、お湯張り終了の音と重なって、ほとんど耳に入ってこなかった。
「あ、ごめん、佳乃花。お風呂溜まったみたい。身体、冷え切ってるからとりあえず入ってくるね。また宅飲みでもしながら話そ! 一路も一緒にっ」
気持ちを切り替えたいように空元気を出してそう言うと、はぁっと小さな溜め息とともに佳乃花が言う。
『ん。――分かった。けど、最後に言ったの、本当のことなんだからね? 霧島先輩と一緒にいるのが辛いんなら……少し目先を変えて彼以外の男性にも目、向けてご覧よ。きっと色々見えてくるものがあると思うな?』
佳乃花にしては珍しく、一気にまくし立てるようにそう言って、『湯冷めしないようにね。とりあえず明日は気持ち切り替えて仕事、ガンバっ!』と付け加えられた。
「うん、ありがとう。おやすみ」
通話を終了しながら……。そっか、明日は嫌でも職場で温和の顔、見ないといけないんだ。
そう気付いて、憂鬱な気持ちになった。
本当その通り。
温和、実は私以外――特に女性――にはすごく優しいの。それが余計にモヤモヤするんだけど……佳乃花に言わせると、『音芽が特別扱いされてる証拠なんじゃない?』になる不思議。
「そんな特別要らないしっ。私だってチヤホヤされたいっ!」
吐き捨てるようにそう言ったら、電話口からクスクスと佳乃花の笑い声がする。その可愛い笑い方に、一路が夢中になるの、分かるなぁとか思ってしまった。
私に足りないものは……そういう女の子めいた愛らしさな気がする。
「……私も可愛くなりたいよぉー」
佳乃花みたいに。
ポツンとつぶやくように言ったら、『え?』と聞き返された。
肩口で切りそろえた、色素の薄い猫毛のボブも、佳乃花の腰まで届きそうな艶やかな黒髪と比べると、女の子らしさを半減させているように思えた。
まぁ、伸ばしたところで職業柄一つに束ねたりおさげにしたりしないといけなくなるからどのみち似合わないんだけど。
『音芽に足りないのはさ、自分は小さくて守ってあげたくなるぐらいすっごく可愛いっていう自覚だと思う』
佳乃花の言葉も、お湯張り終了の音と重なって、ほとんど耳に入ってこなかった。
「あ、ごめん、佳乃花。お風呂溜まったみたい。身体、冷え切ってるからとりあえず入ってくるね。また宅飲みでもしながら話そ! 一路も一緒にっ」
気持ちを切り替えたいように空元気を出してそう言うと、はぁっと小さな溜め息とともに佳乃花が言う。
『ん。――分かった。けど、最後に言ったの、本当のことなんだからね? 霧島先輩と一緒にいるのが辛いんなら……少し目先を変えて彼以外の男性にも目、向けてご覧よ。きっと色々見えてくるものがあると思うな?』
佳乃花にしては珍しく、一気にまくし立てるようにそう言って、『湯冷めしないようにね。とりあえず明日は気持ち切り替えて仕事、ガンバっ!』と付け加えられた。
「うん、ありがとう。おやすみ」
通話を終了しながら……。そっか、明日は嫌でも職場で温和の顔、見ないといけないんだ。
そう気付いて、憂鬱な気持ちになった。