オトメは温和に愛されたい
 私はほうっと溜め息をつくと、渋々ながらも出勤のための支度(したく)を進めていく。
 箪笥(たんす)から選び出した、コットンの白い長袖Tシャツの上に、ターコイズグリーンの薄手のカーディガンを羽織る。下はティーグリーンの、ミモレ丈のスカンツ。
 姿見の前で全体のバランスをチェックして、まぁまぁかな?と思う。ただ、コーディネートはともかくとして、歩くたびに布地が傷口に擦れて痛いのが、しんどい。
 これは少し早めに家を出て、コンビニに寄り道して絆創膏を買わないと。
 大きいサイズがなかったら、とりあえず重ね貼りで対応すればなんとかなる……かな。
 仕事後に薬局に寄って、ちゃんとしたのを買うとして、今日のところはとりあえず。

 そんなことを思っていたら、まだ六時過ぎだというのにチャイムが鳴った。
 こんな時間に来訪者とか……。嫌な予感しか、しない……。
 インターホンのモニターを確認すると……ビンゴ。
 ムスッとした顔で、スーツ姿の温和(はるまさ)が立っていた。

 どうしよう。居留守、使っちゃう……?

 部屋の電気も煌々(こうこう)とついていて……テレビからは朝のワイドショーが流れている。
 こんな状態で居留守とか……無理、です、よね?

 っていうか温和(はるまさ)
 昨夜の今朝でうちのチャイムを鳴らせるとか……どういう神経してるの。

(いや、何にも思ってないだけ……か)

 私が思うほど、温和(はるまさ)は昨日の出来事を重く受け止めていないんだ、きっと。

 そう思ったら、ウジウジ思い悩んでいる自分がバカみたいに思えてきた。
 気にしない素振りをしてくれるんなら、私もそれに乗っかった方が楽かもしれない。仕事のこともあるし。

 私はぐっと拳を握りしめると、玄関に向かう。
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