オトメは温和に愛されたい
 嘘っ。
 なんで?

 でも――温和(はるまさ)()()なんだったら……私も開き直って今すぐにでもあなたの前で見ちゃうんだからね!?
 後悔しても遅いんだから!

 温和(はるまさ)の手を引くように急ぎ足で進んでていた歩みを止めると、私はすぐそばにあったベンチに腰掛けた。

音芽(おとめ)?」
 温和(はるまさ)が不審そうに私の顔を見てくるのへ、ぽんぽんと隣のスペースを叩いて見せると「疲れちゃった。ちょっと休憩」って微笑む。

 温和(はるまさ)が呆れ顔で「無駄に急ぐからだろ」って溜め息を吐きながらすぐ横に座るのを確認して、私はリングを指からそっと外したの。

 で、じっと刻印を眺めたら、彫られていたのは“You are so cute that you are admirable.”という文言で。
 これって確か、“お前可愛すぎてなんかムカつく”って意味だったよね。
 お店で例文を選んでいた時、和訳の素直じゃない感じがめちゃくちゃ温和(はるまさ)っぽいなって思った覚えがあるの。

 でも指輪に入れるなら、いくら温和(はるまさ)でももっと真っ直ぐな愛の言葉にしてくれるかなって勝手に思ってた。

 例えば彼が好きだと言った、ブライアン・アダムスの『 (Everything I Do) I Do It For You』の歌詞の一節みたいな、“I’ll do anything for you.(あなたの為なら何でもしてあげる)”とか、その辺りかな?って。

 なのにまさかこれを選んでるなんて……想像の斜め上だよ、温和(はるまさ)さん!

 もう、ホントひねくれてるんだから。……困った人。

 でも、甘い愛の言葉を送られるよりずっと、この方が彼らしくてときめいちゃうとか……私も大概だよね。

 どうしよう。口の端が笑みの形に緩んじゃうの、止められないっ。

 私の様子に気づいた温和(はるまさ)が「ちょっ、おまっ、何で指輪っ! 車まで待てっつったのに、約束違反だろっ」って慌てるの。

 本当可愛いっ!
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