オトメは温和に愛されたい
***

「……っ」

 温和(はるまさ)に急かされるまま、立ち上がろうとした私は、足に力を入れたと同時に走った、膝の痛みに思わず顔をしかめた。

 擦り傷もさることながら、結構強く打ち付けてしまったみたい。

 膝がズキズキと痛んで、温和(はるまさ)が望むように、素早く立ち上がれる気がしない。

 それでもそれをすぐ傍に立つ彼に気づかれるのは、弱みを見せるみたいで何となく悔しくて、私は傷口をスカートの下にサッと隠すようにして我慢して立ち上がった。

 ……のはいいけれど、足元に置かれた荷物を手に取ろうとして、膝にグッと体重がかかってしまったと同時に、情けなくも再びよろめいてしまう。

「ひゃっ!」
 自分でも笑いたくなるような情けない声が口をついて、体がぐらりと(かし)ぐ。

(あーん、また転んじゃうんだ。温和(はるまさ)の前で無様にまた……)

 そう思ってギュッと目をつぶったのだけど。

 襲ってきたのは倒れる衝撃じゃなくて、腕をグイッと掴まれた痛みで……ついでにすぐそばで温和(はるまさ)の舌打ちと、「この……バカがっ」という、そんな声。
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